玄関のたたきにずり落ちそうになりながら、私は凄い早さでチェーンを外してドアを開ける。

 既に真っ暗な夜の中に立ち、玄関灯に照らされながら男性が立っていた。白いフードパーカーに黒いダウンを着た、若い男の人。すらっとしていて、段差があるたたきの上に立つ私との差を考えたら長身だ。肩からは重そうで大きな鞄を提げている。

 彼は私を見て、白い息を吐きながらにっこりと笑う。目尻に皺がより、大きな口の端がきゅっと上がる。玄関灯の下で、その男性は明るい雰囲気を発散させていた。

「あなたが塚村凪子さん、ですか?」

「・・・あの・・・はい。えーっと・・・綾の弟、さん?」

 そうです、と相手が頷くのを見ながら、私の頭は高速回転した。弟・・・うん、確かに、確か~に聞いたことがあるわ!二つ年下の弟がいるのって!あれは確か、お正月はどう過ごすかを二人で話していた時で―――――――

 彼が寒そうに体を震わせたのを見て、私はやっとドアから手を離す。

「あの・・・とりあえず、どうぞ」

「ありがとうございます」

 聞き慣れない低い声でそう言ってから、彼はまたにっこりと笑う。そのあっけらかんとした笑顔、大きく口元を広げて笑う顔はまさしく綾がするそれで、私はすっかり毒気を抜かれてしまった。

 深夜とは言えないが今や一人になってしまったこの家に、面識のない成年男性を招きいれたということにはちっとも気がつかなかった。とにかくここ数日そうだったようにちょっとした混乱状態にあったのだ。