「あいつ、いないんだな」

「!?」

唐突に声をかけられ、顔を向けると麻夏くんが冷めた目で季龍さんの席を見つめている。

その視線が私に向くと、冷たさは消える。でも消えただけで愛想なんかない。それが麻夏くんらしいなぁって思ったり…?

「ひさしぶり。葉月さん」

「コクン」

「課題いつ終わった?」

『7月中には』

「やっぱ早いんだね」

自然な動作で前の席に座った麻夏くんは、表情こそ乏しいけど、いろんな話をしてくれる。

心配してくれてたのかななんて、ちょっと嬉しくなったりする。

『ちょっとずつ声、出せるようになってきた』

「ふーん。よかったね。そのうち聞かせて」

「コク」

焦らせない麻夏くんのペースも全然苦になることはなくて、話す楽しさのようなものを感じた。