「ねぇ、その子。私見たことあると思うんだけど」

季龍さんの足を止めたのは、お医者さんの声。

季龍さんが振り返ると、お医者さんの顔が見える。その顔は険しくて、季龍さんを疑うように見ている。

肩を支える手に力が入る。季龍さんを見上げると、お医者さんを睨み付けていた。

「その子、髪の色は違うけど」

「妙な正義感で首を突っ込むんじゃねぇ」

お医者さんの言葉を遮った季龍さんは、私を抱き直すと再びお医者さんに背を向ける。

「裏で何が起きてるか知らねぇのに動くな。事態を悪化させたいのか」

「…なら、その子。返すんだよね」

「…」

お医者さんの言葉に季龍さんは何も言わない。

そのままその場所を後にした季龍さんは、すぐ目の前に止めてある車に乗り込む。

車に乗った後も季龍さんは私を膝の上に乗せたままで、降りようとしても押さえられて降りられなかった。

しばらくすると袋を持った伸洋さんが出てきて、運転席に乗り込んだ。