『ありがとう。コーヒー、旨かった』

『っ…あ、こ、こちらこそ、ありがとうございました』

かみかみになりながら話すと少しだけ笑われたような気配がする。

頭の重みが離れていくと、男の子は後部座席に乗り込む。

そのドアをすぐに閉めたお父さんは私の腕をつかむと車から離れる。腕を離されたかと思うと頭を捕まれ無理矢理押さえつけるように下げさせられる。

『お、お父さん…』

『黙りなさい』

頭を下げたままでいると、車のエンジン音の後、車が離れていく音がする。

その音が完全に聞こえなくなるとようやく頭は解放されたけど、押さえつけられていたせいで首が痛い…。

『お父さん痛いよ』

『琴葉、あの客が来てももう対応するな』

『え?なんで?』

珍しく険しい顔をするお父さんに首をかしげる。お父さんはため息をつきながら私の背を押して屋敷の中に戻る。

『ヤクザなんだ。琴葉が関わらなくていい』

『え?…なんっぐ!?』

大声を出しかけた直後に口を塞がれてしまう。じーっとお父さんを見るけど、お父さんは忘れるんだと言うだけで、それ以上のことは何を聞いても教えてくれなかった。

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