「西園寺財閥って知ってるよね、そこだよ。」
一人悶々としていると、とどめを刺される。
正直、そんな人と関わりたくなかった。
生きている世界が違う。
「それで、付き合おうか、俺たち。」
優はさっきから笑みを変えない。
張り付けたような笑顔で私を見つめる。
ーーもし、もしもここで断ったら、庶民である私の生活はどうなるのだろう…。
ーーお父さんやお母さん、もしかしたら佳奈にもなにか…。
ーーでも、また冗談かもしれないし…。
ーーでもでも…。
自分の中で結論が出ず、優の顔を見る。
やはり、先程から変わらない笑った優がいた。
目が細められているから、瞳がよく見えない。
「拒否権ないから、決まりね。」
…。
「え?!」
「だから、俺西園寺だから。分かるよね?」
ーー権力振りかざすとか、最悪…。
私の不機嫌な気持ちが顔に出たのか、優は声を出して笑った。
ーー可愛いなあ…。
さっきまでの笑顔は大人びていたけど、声を出して笑うと子犬みたいで可愛かった。
「なに、見とれてるの?」
私がじっと見ていたからか優はそんなことを言う。
「違う!」
必死に否定する私を見て優はまた笑う。
そんなやりとりをしばらくして、
「じゃあ、もう帰っていいよ。明日、デートね。朝11時に迎えにいくから。」
優がそう言うと、外からスーツの男のリーダーが入ってきて私を外へ出るように促す。
そして、ワゴン車に乗せられ家に帰った。
家に帰ると、一晩連絡もなしにいなくなった私を心配していたのか両親は泣いていた。
実は、両親が心配しているかもということは考えていなかった。
私にはたった一人の兄がいる。
兄はとても頭がいいのだけれど、私はその兄と違って出来がよくないから、期待されず、もしかしたら嫌われているかもと思っていたから。
泣いてくれた両親を見て、とても嬉しかった。
そんな両親に、スーツの男は丁寧に今回の事件について説明し、このことは他言しないよう言って、帰っていった。