高級車に乗り込むと、そこには一人の男の子がいた。
電車の彼だった。
彼は私を見るなり、座るように促す。
そして、私のことをじっと見つめ、言った。
「俺、君のこと好きになったかも。」
ニコリともせずに、真顔のまま彼はそう言った。
「…、え?」
突然のことに動揺を隠せない。
彼と話したことはないし、会ったのだって、電車のときと今日の二回…。
すると彼はニッコリ笑ってこう言った。
「嘘だよ?」
「へ?」
思わず、間抜けな声が出る。
「顔赤いよ、君面白いね。うん、付き合おうか。」
…。
彼は笑みを浮かべたまま、私を見つめる。
そのまま車内には静寂が訪れて、私たちは見つめあったまま。
それでも彼は笑みを崩そうとしないから、なんだか恐くなった。
「君、名前は?」
笑みを変えずに彼はそうたずねる。
「え、えっと、橋本、彩月です…。」
そう言って後悔する。
名前を言うべきではなかったんじゃないかと。
「そう、俺は西園寺優。西園寺って聞いたことある?」
ーー西園寺って、あの西園寺?!
西園寺といえば、有名な財閥で、いろんなところに別荘を持っていることで有名なはず。
もし、優が西園寺財閥のご子息ならこんな高級車に乗っていることは納得できるけど、やっぱりおかしい。