【溺愛症候群】




「ハユ」


 声に顔を上げれば、智が壁にもたれて立っていた。


「お疲れ。ほら、飲んどけ」


 そう言って、冷たいペットボトルを差し出してくれた。


「……ありがと」


 汗をかいたボトルを、飲むこともなく手の中で持て余す。


「俺は、的確な判断だったと思うよ」


 頭に手が伸び、わしゃわしゃ掻き回される。


「……自分の無力さに吐き気がする」


 俯いて、目を閉じる。