「智くんはいいの?」
「風呂入ってるからいいよ」
俺は諦めたが、きっと奴は上手いこと湯槽に浸かっているはずだ。
そう、と首を傾げながらもチィは納得したようで、並んで歩きだした。
夜闇に沈む沈黙を破ることなく、2人でゆっくり足を進めた。
両側がガラス張りの回廊の真ん中で、手を振りチィと別れた。
闇の中を進む小さな背中を見送って、鏡みたいにぴかぴかに磨かれたガラスの向こう、海の上にぽっかり浮かぶ月を仰ぐ。
銀貨みたいな月は濃紺の海に自身の姿を映して、ひっそり静かに砂浜や松林を照らしている。
ガラス越しに、潮騒が静かに響いた。


