手を突っ込んで取り出したそれは陶磁器のような白さと滑らかさを持ち合わせていて、ネズミ型に齧られた跡のあるりんごがシンプルながら可愛らしかった。
「あったよ。はい」
ケータイを手渡すと、チィは嬉しそうに顔をほころばせ胸元に引き寄せた。
「ありがとう。よかった、ここにあって」
「なくさないように気を付けなよ?」
「うん、気を付ける。夜遅くに本当にありがとね」
「いえいえ。部屋まで送ろうか?」
「大丈夫だよ、棟が違うって言っても、そこの回廊渡ればすぐだし。あそこの回廊ね、月が綺麗に見えるんだよ」
「そうなの? 行ってみようかな」
シューズボックスの上に置きっぱなしだったカードキーを1枚持って、部屋を出る。


