長州の有力者、吉田稔麿についていき、
人気のない、薄暗い路地裏。
俺は、この時間が嫌いだ。
「壬生浪どもの情報はまだか。」
「はっはい、まだ何も・・・。」
長州に生まれた俺は、
特に秀でたものもなかったため
駒のような扱いを受け、長州に有利な情報を
つかむため、間者として壬生浪に送られた。
「ちっ、早くしろ。久城先生がお待ちだ。」
いつもと同じ言葉。”久城先生”
そう言い残して吉田さんは去っていく。
威圧感に解放され、少し安心した。
まだ・・・まだ大丈夫だ。・・・まだ、
そう心の中で自分に言い聞かせ、
その場から立ち去ろうとしたとき、
「お前、いつまで何も言わない気だ?」
っ・・・こいつ、いつから。
木の死角から出てきたのは、同じ長州の間者
佐伯又三郎だった。


