雲に隠され、わずかに漏れる月明かり...
周りの目を気にするように愛次郎は
屯所の人気のない場所へ向かった。
「...話ってなんだよ。」
気配を感じて振り返れば
怪しい笑みを浮かべた佐伯が姿を表した。
「お前の恋仲...あぐりって言ったっけ?」
「あぐりがなんだ?!」
その名前が愛次郎の胸に嫌な予感が走る
「芹沢さん、妾にしようとしてるぞ。」
「なっ?!」
「あの人頑固だからな~。」
あぐり......あぐりが...っ....
いつも隣で笑っているあぐりの姿が思い浮かぶ
「ひとつ、いい案がある。
いっそ駆け落ちしたらどうだ?」
「かっ、駆け落ち?!そんな....
そもそも吉田さんに分かったらどうなるか...」
「いいのか?大事な大事なあぐりちゃんが
芹沢さんに取られちまってもよ...?」
「それは...」
あぐりの話に、冷静になれない愛次郎。
「吉田は俺がなんとかしてやるよ。
うまく逃げちまえばいいだけの話だろ?
手を貸してやるよ...。」
「佐伯...。
っ、すまない......手を貸してくれ。」
「ふっ、あいよ。
行動に移すんだったら早い方がいいな...
そう、明日にでも。」
「明日?!何が何でも早すぎ...」
「芹沢さんは待ってくれねぇぞ?
ちんたらしてたら吉田も気づくだろうな~。」
「っ....分かった。明日、
明日の夜にあぐりと、江戸に向かう...。」
「そうと決まれば、早速荷造りしねぇとな?
あぐりちゃんとも話とけよ?」
「....あぁ、恩にきる。」
複雑な気持ちで、愛次郎は足早に去っていった
「くっ....ふっ......ふふっ!
...............っあはははははははは!!
...楽しくなってきた。」
月が完全に隠れた空間に
狂気に満ちた男が1人。
何が正しくて、何が間違っているのか
全てを狂わせ、
血の匂いを濃く纏わせるそれは
一体なにを望む...。


