「そうだよ。さっき部室の前で会ったばかり。あんな可愛い子が同じ大学にいたなんてビックリだよ〜」

 久しぶりの再会を喜んでいる感じを装ってみたものの、私はひどく緊張していた。凜翔との間に薄くて固い氷みたいな壁があるような気がしたから。……それは気のせいではないと、凜翔の次の言葉で分かった。

「紗希は教育学部だから。ひなたとは接点ないと思ってた」

「へえ、凜翔と同じ学部なんだ!今まで見たことないわけだね、ははは……」

「紗希に、会わせたくなかった」

「え……」

 それってどういうこと?

 嫌な予感で体が熱くなる。偶然とはいえ、レンタル彼氏をしている凜翔のプライベートを知ってしまったから、そのことを怒ってるんだろうか?

「大丈夫!凜翔の仕事のことは誰にも言わないし!もちろん、デートしたことだって秘密にする。心晴(こはる)にもそうお願いするし。やっぱり彼女には知られたくないことだもんね?」

「……ひなた」

 気まずそうに目を伏せ、凜翔は黙り込んでしまった。

『初恋は年上の女性で、彼女はいない』

 レンタル彼氏のホームページに出してた凜翔のプロフィールはウソなんだと確信した。楽器の演奏という特技以外、全部。

「そうだよね。そういう風に書かないとお客さんがガッカリするもんね……。分かってたよ、分かってた……」

 自分に言い聞かせるように明るくそうつぶやく私を見て、凜翔は言い訳を考えるようにもどかしげな表情を見せる。

 何でもいいから言い訳してほしかった。でも、彼は何も言わず、ただ、何か言いたそうに目を伏せるだけだった。