凜翔(りひと)の音楽に引き寄せられて再会……だなんて、ロマンチックなことを思うヒマは皆無だったーー。

 場違いな自分に気付いてその場を離れようとした時、ピアノのイスに座っていた凜翔が勢いよく立ち上がり強引に私の手を取った。

「ちょっと来て」

「凜翔…!?」

 されるがままだった。私を連れて部室を出る凜翔に、紗希(さき)ちゃんも大きな声を出した。

「練習は!?」

「後できっちりやるから!少しだけ時間ちょうだい。ごめん」

「ちょっと!!」

 気の強そうな紗希ちゃんの制止にかまわず、凜翔は早歩きをした。サークル棟を離れてたどり着いたのは、昼間でも人通りの少ない中庭の池だった。

「凜翔、手、痛い……」

「……」

 無言で手を離され、ホッとした。でも、胸のドキドキが止まらない。早歩きしたせいではなかった。

 これまでの凜翔のイメージと違い、今の彼からは余裕が消えている。

「勝手に部室行ってごめん……。怒ってる?」

「怒ってないよ」

 そこでようやく、凜翔は穏やかさを見せた。でも、どこか困ったように視線をさまよわせ、こんなことを訊いてきた。

「紗希とは、本当に初対面?」