ため息をつくと、心晴はようやく飲み物に少しだけ口をつけた。

「複雑な気分だよ。お母さんのことは好きだし協力したいと思うけど、あたしにもあたしの生活があるから。ひなたやイサキと離れたくないし……」

「そうだよね……」

 心晴の背中をなで、私は言った。

「心晴だけここに残ることはできないの?」

「あたしもそうしたいけど、お母さんはどうしてもあたしについてきてほしいって……。ここまでやってこれたのはあたしのおかげだから、一人で知らない所に住むのは心細いって。そんなこと言われたら行きたくないなんて言えなくて……」

「心晴……」

「お父さん死んでからもここまで無事に暮らしてこれたのは、お母さんが頑張ってくれたおかげだもんね……」

 自分の都合だけ考えたらここに残りたい。でも、心晴は最初に引っ越すと言った。もう答えは決まってるんだ……。

「私も心晴がいなくなるのは寂しいよ。できることなら引き止めたい。行かないでほしいよ。でも、おばさんの再出発を応援したいんだよね」

「うん……。あたしのワガママでお母さんの就職がなしになるのも嫌だから。ごめんね、ひなた……」

「謝ることないよ。2時間半なんてすぐだし!」

 車もまだ持ってないクセに、何を言ってるんだろう。受け身な自分が情けなくなった。私が想像するよりもっと心晴はつらいのに、何の助けにもなれないなんてーー。