「レンタル彼氏って、お客さんのリクエストがあればドライブとかもするんだと思ってた」

「お客さんにもよく言われるけど、車って逃げ場のない密室だから、そういう所でお客さんと二人きりになるのは禁止されてるんだよ。デート中の移動手段は電車かバスでって会社から指示されてる。あと、お客さんのプライベートの詮索とかもダメ」

「そうなんだ。けっこう厳しい仕事なんだね」

 女好きなチャラい人に向いた仕事だと、心のどこかで思ってた。ごめんなさい。

「レンタル彼氏してると軽く思われがちだけど、真面目な人も多いよ。もちろん、女の子大好きな人も多いけど」

 そこでつないでいた手を離し、凜翔は車の前に立った。初心者マークがついてるのを見て、彼が年下なんだと実感した。

 車のキーを開けると、凜翔は助手席の扉をわざわざ開けてくれた。

「ありがとう。綺麗な車だね」

「中古だけど、けっこう気に入ってるんだ」

「そうなの?新車かと思った!」

 助手席のシートにもたれると、新車独特の匂いがした。中古とはとても思えない。凜翔って買い物上手なんだなぁ。

「あれ?これって……」

 助手席と運転席の間にある小物置きに、英語の教科書が挟まっていた。1年の頃、私が英語の講義で使っていた物に似てる。

「凜翔って、もしかして大学生?」

「バレちゃった」

 なぜ「バレちゃった」なのかは分からないけど、凜翔は苦笑し、私の見つけた英語の教科書をそっと後部座席に置いた。