「待たせてごめんね、ひなた」
何事もなかったかのように挨拶をする凜翔に、昭と優は目を丸くしツッコミを入れた。
「女の子投げといてそれはないだろ。相変わらずマイペースだよな、お前」
「今のは痛かったでしょ、大丈夫?」
昭と優は地面に横たわった紗希ちゃんを心配し彼女の体を支えようとした。そちらへは目もくれず凜翔はまっすぐ私を見た。
「三枝さんからメールもらって、急いで来た。危ない目に遭わせてごめんね」
私が紗希ちゃんと話している時、心晴はこっそり凜翔にメールを送ってくれていたそうだ。
「ううん、凜翔のおかげで助かったよ。でも、大丈夫なの?バイト先でトラブルがあったって聞いたけど……」
「もう平気。違約金払って辞めてきたから。今日のデートは俺の都合でキャンセル扱いになったから、そのことも店の人と話してきた」
他人事みたくあっさり報告する凜翔に、真っ先に食いついたのは紗希ちゃんだった。投げ飛ばされた痛みに顔を歪め、彼女は言った。
「信じられない…!じゃあ、やっぱり本当なの?この女のためにレンタル彼氏のバイトしてたって……」
「そうだよ。そろそろ潮時かなって思ってたし、魅力的な男になれたって言い切る自信は今もないけど、ひなたによけいな心配かけたくないから」
静かに、だけどどこか怒りの感情を漂わせ、凜翔は紗希ちゃんに言った。
「ひなたを困らせたくなくて進路に無関心なフリしてたけど、この大学選んだのはひなたに追いつくため。音楽に関わり続けたのもピアノを弾いて想い出の曲を奏で続けるため。連絡先も、ひなたの以外は興味ないから、紗希にも教えなかった」
「……」
「紗希の気持ちに気付けなかった俺が悪い。身勝手なことして紗希を傷つけたね、本当にごめんね。ひなたは悪くないよ。『分かって』なんて、言う気ないけど」
凜翔は私の背中に手を回し、その場を後にした。心晴も一緒に来た。昭と優は、同情心からかしばらく紗希ちゃんのそばにいたようだった。


