レンタル彼氏–恋策–


 肩を並べて歩き出す昭と優につられ、心晴と私が移動しようとした時だった。

「ムカつく!ムカつく!ムカつく!」

 恐ろしいほど低く恨みのこもった声で、紗希ちゃんが叫んだ。

「今までの男は皆私だけの言うことを聞いて私だけを好きになったのに、お前ばっかり皆に可愛がられるなんて間違ってる!ウワサじゃ懲りてないみたいだし、もっと痛い目見ればいいんだ……!」

 紗希ちゃんは持っていたカバンの中からカッターナイフを取り出し、むき出しになった刃先を私に向けた。

 悲鳴をあげる間もなく振り下ろされるカッターナイフ。私は身を縮こまらせ頭を抱えるようにしゃがみこんだ。守ろうとしてくれた昭や優、心晴の動きがスローモーションのように見えた。

 ギラリと光る刃が髪の先を掠(かす)める感覚がし恐怖を覚えた時、何かを投げ飛ばすような重々しい音と紗希ちゃんの悲鳴が聞こえた。

「きゃあっ…!」

 少林寺拳法の投げ技で、紗希ちゃんを地面に叩きつけたのは、彼女の背後から現れた凜翔だった。

 ピアノを弾いている時とは違うワイルドな一面を見て、胸がドキドキした。こんな状況なのに、凜翔の男らしさに見惚れてしまう。