レンタル彼氏–恋策–



 それからいくつかの展示や出店を周り、凜翔との待ち合わせ時間になった。彼はいっこうに姿を見せず、レンタルデートの予約時間を1時間過ぎてもその姿を現さない。

「待ち合わせ、ここであってるよね?」

「うん、大学の正門でいいはずだよ……。もう一回電話してみるね」

 凜翔の番号にさっきから何度も電話をかけているのに、凜翔は出そうになかった。プルルルルという音の代わりに凜翔のスマホから流れるメロディーが『木枯らしのエチュード』だったことに胸がキュンと鳴るものの、会えるはずの時間に会えないことが不安を煽(あお)る。

「凜翔君、勤務態度はいたって真面目で遅刻なんて一度もしたことないのって、ウチのお母さんも言ってたのに……」

 さすがの心晴も不安げな顔をした時だった。

 紗希ちゃんが怒りの形相で私の元へやってきた。

「アンタのせいで、昭も凜翔もおかしくなった!」

 叫ぶように言い、紗希ちゃんは目に涙を浮かべた。ツヤツヤだった彼女の肌も、堂々とした雰囲気も、疲れているのかくすんで見える。バイト中は極力目を合わせないように接したので、彼女の顔をまともに見るのはこれが久しぶりだった。

「ひなたのせいって、何!?言いがかりはやめてよ」

 かばうように私を背中に隠し、心晴が紗希ちゃんと対峙した。心晴の勢いにひるんだものの、紗希ちゃんは負けじと食ってかかった。

「アンタには関係ない!その女に用があるの!」

「ごめんね心晴、私が話すよ。ありがとう」

 「でも……」とためらう心晴の前に出て、私は紗希ちゃんに尋ねてみることにした。凜翔が遅刻していることについて、紗希ちゃんは何か知っているかもしれないから。

「凜翔がおかしくなったって言ったよね。今日、私達、凜翔と三人で学園祭を回るつもりだったんだけど、凜翔だけまだ来てない。それって私のせい?」

「そうだよ」

 話が早いと言わんばかりに、紗希ちゃんは矢継ぎ早に言った。

「他のタレントにアンタとの関係告げ口されて、凜翔は会社の人と揉めてるの!アンタに入れ込んだ罰も受けるかもしれない。ただでさえ凜翔は人気のタレントだから、アンタと親密になってるって知った客がストーカーまがいなことしてるって話もある。昭だって、私と別れたいって言い出した!アンタが未練がましくバイトに居続けたせいで……!」