それから中庭に行くと空いたベンチを見つけたので、心晴と私はそこへ座った。人があまり来ず静かだ。
「優君と話せた?」
「やっぱり心晴、気遣ってくれたんだ」
心晴はうなずいた。
「優君は優しいね」
「うん。別れたことも付き合ったこともなかったかのように、普通に接してくれる」
「そういうの、助かるけど胸も痛むよね」
「そうだね……。元気そうで良かったけど」
「さっきあたしが抜けたの、ひなた達に気を遣っただけじゃないんだ……。優君に対して後ろめたかったから、顔合わせづらくて。もちろん、優君はあたしのしたこと知らないだろうけど……」
そうだ。心晴は、私の幸せのために凜翔を紹介してくれた。優からしたら、本当の恋敵は凜翔じゃなくて心晴なのかもしれない。
「そうな風に思わないでいいよ。大丈夫。私は自分の意思で凜翔を選んだ。心晴のせいじゃない」
それに、昭のことはもう責められないなと思う。優がいたのに凜翔を好きになった私には。
私は言った。
「周りがどう動こうと、本来行くべき方向へ人は自然に流れていく。そうなんだって思うことにしたよ。恋する相手もそう」
心晴が紹介してくれたおかげで凜翔との出会いは早まったけど、心晴の手引きがなかったとしても、凜翔とはきっとどこかで出会う運命だったのかもしれないと思う。昭と付き合ってる私を、凜翔が見つけてくれたように。
「その考えいいね。あたしもマネするよ」
心晴はそうつぶやき、空を眺めた。その一言は、新しい土地でお母さんと生活していくことを言ったのかもしれない。


