そうだ。凜翔とは始まったばかり。こんなの、少し前の私からしたら贅沢すぎる悩みだ。
「大切にするよ。凜翔と、この恋を」
「うん。そうだよ、ひなた。あたしもさ、今回の引っ越しでイサキと離れ離れになることに不安はあるけど、好きな気持ちがあるから頑張るつもり!」
そうつぶやく心晴の声は、静かな決意に満ちていた。ずっと私と同じ位置にいたと思っていた心晴がすごく大人びて見える。
私もいつか、心晴のように揺るぎない気持ちで立てる日が来たらいいなと思った。
大学に着くと思ったよりたくさんの来場者がいて学内は騒然としていた。あえて早めに来た私達は、普段ない賑わいに気分を高まらせた。
「ひなたんとこの大学祭、年々人多くなってない!?すごっ」
「そうだね。有名人呼んでる効果かも。でも、有名人が来るのは明日の野外ライブなのにな〜」
もう少しゆっくり色々見て回ろうかと思っていたけど、来場者のためにセッティングされた講堂のテーブルセットはほぼ全席埋まっていて、私達が座れそうなのは風の当たる外のテラス席だけだった。それでも、テラス席にもまばらに人の姿がある。
「ごめんね、心晴。外の席しかなくて」
「大丈夫大丈夫!コート着てるし全然寒くないから」
元気に笑う心晴を連れてテラス席に着くと、優が声をかけてきた。彼にしては珍しく、ジャージに腰だけエプロンを巻いたラフな格好をしている。


