でも、心晴は最初、その頼みをキッパリ断った。

「ひなたは昭君ひとすじだからそんなことできないよ」
「そうですよね……。無理を言ってすみませんでした」

 凜翔も、心晴の返事に納得した。彼氏のいる人と近付きたいなんて、そんなの無茶だと自分でも分かっていた。

 その後、凜翔は心晴と何度か会う機会を得た。心晴のお母さんが月に1、2度、凜翔を指名してデートの予約を入れたからだ。心晴のお母さんはレンタルデートで久しぶりに若々しい気持ちを取り戻し、仕事への活力も湧いたという。正社員の仕事が決まったのも、そういう心境の変化が影響していたのかもしれない。

 お母さんのデートが終わる頃、心晴はたいていお母さんの迎えに来た。それは、母親を心配してというより、凜翔が私に対して何かしでかさないかという懸念からそうしていたようだ。

「三枝さんの顔を見るたび、無言で牽制されてるのが分かった。でも……」

 心晴にお願いを断られてから半年近く経った10月、なんと、心晴の方から私とのデートを予約してきた。凜翔は当然、驚いた。

「ひなたのこと真面目に想ってくれるなら紹介してもいいよって、三枝さんは言った。それが、ひなたとの最初のレンタルデートだったんだよ」

「そうだったんだ……」

 私の知らないところで心晴がそんな風に動いてくれていたなんて……。

 思い返してみたら納得できることがいくつもある。初めてレンタル彼氏を紹介してきた心晴のノリもどこか不自然だったし、凜翔の話をする時の心晴もいつもと違う感じがした。何かをごまかすような様子だった。