そっと私の体を離し、凜翔(りひと)は言った。

「ひなたに会わせる顔ないから避けてたのに、本当は偶然にでも会いたいと思ってた。部室で思い出の曲弾いてたらひなたが現れてホントビックリしたけど、嬉しかった」

「私も。まさか軽音楽部の部室に凜翔がいるなんて思わなかったよ」

 まるで運命みたいだね。そう言うように、私達は互いを見つめ合う。

 『木枯らしのエチュード』が引き合わせてくれた。私も今後、この曲が大好きになりそう。

「ひなたのこと、好きだよ」

「私も…!」

「こんな俺でよかったら、付き合って下さい」

「ふつつかものですが、こちらこそよろしくお願いします!」

「あはは…!」

「ふふっ」

 想いを伝え合って、互いの顔を見つめ合う。照れくささと喜びで笑い声が漏れた。

「なんか、ひなたとこうしてるの照れるね。しかも自分の部屋で」

 照れくさそうに凜翔が笑うと、胸の奥がうずくような幸せを感じた。

 そして、次の瞬間、変な緊張感が湧いてきた。凜翔の部屋で二人きりだってことを意識してしまったから。

「レンタル彼氏として出会うなんて運命的だよねっ。でも、それより前から会ってたなら声かけてくれればよかったのにっ」

 緊張を紛らわすためそんな疑問を口にした私を見て、凜翔はぎこちなく答えた。

「……話したかったけど、こっちからグイグイ行けるほど自分に自信なかった」

「えっ、凜翔ほどの人が…?」

 レンタル彼氏として人気の凜翔がそんな消極的な思考だったなんて信じられない。私の顔を見て、凜翔は何か言いたげに視線を泳がせた。

「私、変なこと言った…?」

「そうじゃないけど……。レンタルデートも、実は仕組んだことだったり……」

「それってどういう…?」

 尋ねようとした時、カバンの中のスマホが鳴る。

「心晴(こはる)から電話だ…!」

「いいよ、出て?待ってる」

 凜翔がそう言ってくれたので「ごめんね」と謝り、心晴の電話に出た。

『杏奈(あんな)に聞いたよ!ひなた、大学でひどい目に遭ったんだって!?大丈夫?』

 杏奈から電話が来たらしい。口早に心配する心晴に、私は言いようのないくらいホッとしていた。杏奈や優だけじゃない、心晴にまで心配をかけて申し訳ないという思いと同時に、大切に思ってもらえていることが嬉しくて……。