「……ひなた」

 もどかしそうな目で見つめ、凜翔は私の体を力いっぱい抱きしめた。

「くっ、苦しいよ、凜翔っ」

「ごめん。今は加減できそうにない」

 凜翔の匂いとたくましい腕に、とろけそうな気分だった。少林寺拳法をやっているだけあって、細身なのに力強い。ちょっと苦しいけど、でも、嬉しい。

 胸の奥から湧いてくる感情に、今はただ浸りたい。凜翔も同じ気持ちでいてくれると思うと、幸せで仕方なかった。


 この時、サイレントモードになった凜翔のスマホが何度も着信を知らせていたことを、私達は知らなかった。