昭の言動を正せないまま凜翔は大学生になり、軽音楽部に入った。高校時代より気楽に音楽を楽しみたかったから。凜翔はキーボード担当。凜翔と同時期に入ってきた紗希ちゃんはボーカルを希望した。
紗希ちゃんは凜翔と同じ高校の音楽科出身らしいが、高校時代二人はただのクラスメイトの関係で行動を共にする友達も違っていたので、軽音楽部に入るまで互いのことをよく知らなかった。でも、他の軽音楽部メンバー達を含めてバンドを組んでライブや練習をしているうちに親しくなっていった。
今年の夏を迎える頃には、結成したばかりのバンドとは思えないくらい、メンバーの仲は良くなった。演奏や方向性のことで多少揉めることはあったけど、それも親しいからこそのぶつかり合い。
「夏休みが始まるちょっと前、メンバーがここに遊びに来たんだ。その中に紗希もいて……」
その日、たまたまリビングにいた昭は、トイレを借りようとしていた紗希ちゃんにその場所を案内したらしい。
「その時二人がどんなやり取りをしたのかは知らないけど、紗希が昭を好きになったのはその時だったと思う……。その後、紗希に昭のことやたら訊かれたから」
「……そうだったんだ」
私が昭に振られたのは、たしかにその頃だ。
「話してくれてありがとう。でも、やっぱり凜翔は悪くないよ。昭が心変わりするキッカケはたしかにその時だったかもしれないけど、そんなことで気持ちが変わるくらいなら、いつか同じような理由で別れてたと思う。それが早くなっただけだよ。よかった」


