「ひなた……!」

 凜翔(りひと)は玄関先まで追いかけてきたけど、私は彼の顔を見れなかった。

「ごめん、帰るね……」

 凜翔は何か言いたげにしながらも、それ以上何も言えないといった感じでうつむき、私を見送った。今度こそ追いかけてくることはなかったーー。


 紗希(さき)ちゃんさえ現れなければ、昭(あき)と別れずにすんだ。だけど、それは昭に振られた頃の気持ちで、今はそこまで昭に執着心はない。むしろ、今好きなのは……。


 凜翔……。まさか、私の知らないところで昭との関係を壊そうとしていたなんて……。しかも、二人が兄弟だったなんて、驚くしかない。

 ーーひなたのこと好きな気持ちにウソはないからーー

 凜翔の言葉を頭の中で反芻(はんすう)してみても、いまいち実感がなかった。優しくされるたび甘い期待をしてしまうことはあったけどそれは都合のいい妄想で、好かれてるなんてこれっぽっちも思わなかったし、ましてやこんな流れで告白されるだなんて予想外だったから。

 それに、凜翔みたいに完璧な人に好かれる要素がない。自分で言ってて悲しいが、私は凡人の中の凡人で、外見スペックも紗希ちゃんと比べたら断然劣る。女として綺麗になる努力はしてるけどそれで満足いくことはなく、それなりの成果。

 もともと謎だった凜翔の気持ちが、今回のことでますます分からなくなった。