「今さらこんなことされたって嬉しくなんかない!離してよ!バカ昭!!」
「ホント、バカだよな……」
抱きしめてくる腕が緩むと同時に、私は全力で昭から離れ距離を取った。昭の口調はしおらしくなり、今まで見せたことのない弱気な顔をした。
「やっぱり俺、ひなたのことが好きだ」
「え?……今さら何言ってるの?……あ、そっか。何かの罰ゲームか!元カノに告ってこい的な」
「大学生になってまでそんな遊びする奴いねえって。分かれよ」
「分かるか!」
ツッコミのごとく反射的に返した私に、昭は泣きそうな目を向けた。
「長い間一緒にいて、ひなたがそばにいるの当たり前になってた。そんな時に紗希と出会って、告られて、新鮮な恋を思い出して、いい気になってた。前に、優に関する悪いウワサ作ってひなたに聞かせたのも、仲良さそうなお前らに嫉妬したから。優と別れて俺の元に戻ってきてほしかったから」
信じられなかった。
「一方的に別れといて、それはないよ……。紗希ちゃん可愛いもんね。私よりあの子を選んだんだよね?だったらもうそれでいいじゃん!私はもう昭のことなんて好きじゃないから……」
キッパリそう告げ、全速力で駆けた。ひたすら走った。息苦しくなっても、その足を止めないままに……。
ウソだ……!
昭の気持ちを知りたくなかった。聞いてしまった今も認めたくない。だって、それは私のせいだから。計算して優と付き合ったりしたから、昭はそれに引っかかった。狙った現実がいざこうして本物になると、こわくて仕方なかった。
この時、昭を追いかけバイトを抜けてきた紗希ちゃんとすれ違っていたことに、私は気付けなかった。
自分のしたことの重さを、今になってようやく知った……。言葉で語るよりも重い。優を犠牲にして昭の気持ちを取り戻した、その罪は……。


