「お前マジうぜー……」

 それはたしかに紗希(さき)ちゃんの声だった。その可愛い顔も、言葉遣いのせいか歪んで見えてくる。

「好きな男を信じる自分純粋ーとでも思ってる?だいたいさ、そんなウソついて私に何の得があるの?引くわー。理解できねえ……」

 どうしてここまで言われなきゃならないんだろう?

 大学でもバイトでも私の方が先輩だし多少の悪意は流そうと思っていたけど、さすがに我慢の限界だった。昭(あき)を奪っておきながら謝ることもなく開き直る彼女に心底腹が立ち、今までで一番、人を嫌いだと思った。

 最悪バイトを辞めなければならなくなるけど、気分が怒りや悔しさに染められるとそんなことどうでもよくなり、気付くと紗希ちゃんに強く言い返していた。

「……この間から思ってたけど、何でそこまで突っかかってくるの?私、紗希ちゃんに何かした?ネチネチ不愉快なこと言ってないで、言いたいことがあるならハッキリ言えば!?」

「……っ!」

「何?早く言って。もうバイト始まるから」

「……」

 それまでの暴言がウソみたいに紗希ちゃんはおとなしくなった。ここまで反撃されると思っていなかったのかもしれない。

 ため息をつき、私は話をまとめた。

「今後はこういうのやめてね。ここバイト先だから。仕事中は普通にしよ?」