既に南条が居なくなった廊下に出る。

少し開いた廊下の窓からはカシオペア座のW字が早々と小さな光を放つのが見えた。



俺は窓を閉めて小さく息を吐き、そっと唇に触れる。

唇に残る彼女の温もりが却って虚しさを誘う。





階段を降り、職員室のある隣の棟に入ると直ぐ、

「初原せーんせ♪」

と声を掛けられた。



(こんな時にまた面倒臭い人が…)



俺は額に手を当て、小さく溜め息を吐く。



「初原せんせー日曜日空いてる?空いてるよねっ♪」

にっこり笑顔ですり寄ってくるこの男。

体育の仁科先生だ。



仁科先生─通称にっしゃん─は俺と同じくこの春からうちの学校に赴任してきた。

と言っても俺みたいな新卒ではなく、歳は俺より5歳ほど上。

本業はスポーツクラブに勤めているのだとかで、体育の豊島先生が産育休を取っている間の代理講師としてベテラン体育教師の山本先生が引っ張って来たらしい。

今は中学生と高3の授業を受け持っている。