「受験生なんだからあんまり羽目外すなよ。」

「…はい。」

「……」



先生は溜め息混じりに窓の外に眼を遣る。

冬の夕暮れはあっと言う間に夜を連れてくる。既に天頂は暗く清んで、ますます切なさを際立たせる。



「出来ればそういうのは今は…

慎んで欲しいかな。」

「……」

「分からないことは何でも聞いてもらっていいから勉強に集中して欲しい。」



先生は空の闇を映して黒曜石のような瞳を一度伏せ、それからゆっくりと私を見る。

美しい視線に見据えられて私の胸は嫌でも高鳴ってしまう。



(先生…)



そんな眼を向けられたら、諦められなくなるよ。

やっぱり先生のこと…好きだと思っちゃうよ。



「私…行きますね。」

先生の視線が苦しくて、私は俯いて肩に掛けたスクバの持ち手を握り直す。



「…彼氏に会うの?」



突然の先生の言葉に、進み掛けた歩が止まる。

と同時に先生の掌が私の腕を掴む。



「!」



恐る恐る顔を上げると、先生の大きな瞳は私を咎めるように、そしてどこか悲しげに揺らめいていた。



「せんせ…」

自然と唇から零れ落ちるように呟く。



「南条…」

私の腕を掴む先生の手に力がこもり、掴まれた腕をぐいと引かれた。



「あ…!」