あれは10月のこと。



「舞奈ちゃん、捕まらなかったの?」

カフェに戻ってきた俺に夜璃子が言った。

「…あぁ。」

溜め息混じりに応えると、俺は元の席にどかっと腰を下ろした。



南条を夜璃子と引き合わせて、カフェで話をしたあの日。

突然南条は「明後日模試があるから」と席を立ち、店を出ていった。



「南条ちょっと待て!送るから!!」

慌てて後を追うも、混み合う街に既に南条の姿は見えなくなっていて、元来た道を南口まで戻ってはみたがとうとう逢うことが出来なかった。



「昴が「授業がなかったら舞奈ちゃんとお泊まりする」なんて言うからー。」

「それ言ったのお前だろ!俺じゃねぇよ!」

ただでさえささくれ立つ気持ちを夜璃子が逆撫でする。



「あはは、冗談。

多分あの子、私達のこと勘違いしたんだと思う。」

「勘違い?」

「例えば「付き合ってる」とか?」

「いや、ないない!」

「私に否定したってしょうがないでしょ。
否定なら舞奈ちゃんにしなさいよ。

端から見たら『男と女の友情』なんてあり得ないと思われてんのよ。

ましてや『同志』とか言われても誰もピンと来ないわね。」

「にしたってなぁ…」

俺は深い溜め息を吐き頭を抱える。



「なんで帰る必要ある?」

「気ぃ遣ったんでしょ?」

「はぁ…

気ぃ遣われちゃうか…」



夜璃子と付き合ってると思って気を遣われるってことは…

やっぱり南条は俺にその気が全くない、ってことだよな…



いや、分かってる。

それが正しい関係なんだって。