「だって、せっかく都合をつけて家族で旅行をしているのよ? 一緒じゃなきゃだめよ」
「これから一緒に住むんだぞ? 飽きるほど顔を合わせるよ。でも、茜とのこのひと時は新婚の時だけなんだから、邪魔されたくない」
「ねえ、橘君って、人の言うことを聞かない人なの?」
「そうでもないよ。でも、茜のことに関しては譲れないな」
「もう、おちゃらけてないで真剣に聞いてよ」

だけど、橘君はそれが嬉しいようで、

「茜がいろいろな表情を見せてくれるのが嬉しい」

と言って、笑った。

「茜、家族を作ろう。そして一日、一日を大切に生きるんだ。いい?」
「はい」

ふざけていると思ったら、真剣な目で大切なことを言う。彼には振り回される。

「本当にきれいでびっくりした。今日まで見せてくれなかったから」
「本当にそう思ってる?」
「茜に嘘はつかないよ」

和装とイブニングドレスは前撮りで写真を撮っていた。
ウエディングドレスだけは当日まで内緒にしておきたかったのだ。
沖縄の海とホテルを背景に、写真を撮って、芸能人のようだと思った。
色々なポーズを取らされて、恥ずかしかった。

「キスしてみましょうか?」
「え!!」

カメラマンは乗ってきてしまったのか、突拍子もないことを言い出して、大きな声を出してしまった。
当然橘君は乗り気で、顔を近づける橘君の顎を両手で押して、のけぞる。そんなところも自然体でいいと、カメラマンは撮りまくっていた。

「いや!!」
「なんで」
「恥ずかしいでしょう?」
「旅の恥はかき捨て」
「そうじゃない!!……んん!」

結局私は、キスをすることになり、いい思い出の沖縄になるはずが、羞恥にまみれた思い出になってしまった。