作家たちの話

口裂け女は走り去っていった。すぐに後ろ姿が見えなくなる程速かった。陸上の選手目指せそうだ。もしまた会って、僕に余裕があれば言ってあげたい。きっと、オリンピックもあの人も大きく変わる。

「あの……」

「はい?」

女の子はもじもじと何か言いたそうにしている。

「今日のことはあまり……他の人に言わないでくれませんか?えっと、顔を気にしているから、面白半分で見に来られると……」

僕たちが口裂け女を見に行くことで傷付いていたのかもしれない。自分の顔は普通じゃない、馬鹿にされていると思わせてしまったのか……。

「言わないよ」

あの子が助けてくれなかったら疾風も……僕たちも死んでいたかもしれない。あの人のため、そして他の子供たちのためでもある。

「さようならー!今日はありがとー!」

僕たちはお礼を言って手を振る。
女の子はやっぱり前で手を組み、俯いていた。

不思議な子だったな。僕たちとは違う存在だったのかもしれない。

「俺、あの子の名前聞いてくる!」

疾風と一緒にいた男子が引き返す。

「僕も!」

学校で会うことがあったらまたお礼を言いたい。命を助けてもらったんだ。一言だけでは足りないと思う。今度は何か物も渡したい。
女子の好きなものなんてわからないけど……。

「俺らは帰るぞー!」

もう小学生が帰るべき時間は過ぎている。僕は怒られてもいい。元からいい子じゃなかったし。

「君!」

「何……?」

「名前教えてくれる?」

凄いなあ、初対面の人でも緊張しないって。
僕は側にいて答えを待つだけだ。

「……森 妃姫子(もり ひきこ)」

「妃姫子ちゃんか……珍しい名前だね」

妃姫子ちゃん、ちょっと嫌そう?
顔はよく見えないけど、眉間にシワを寄せている気がする。

「いい名前だと思うよ!他の子とかぶらない名前ってちょっと憧れるし……」

初対面でちゃん付けが駄目だったのかもしれない。言ってから気がついた。やっぱり人と話すのは難しい。

「……ありがとう」

ちょっと嬉しそう?表情が少し柔らかくなった。
妃姫子ちゃんはワンピースを掴んでいた。そういえば、ワンピースボロボロだなあ。

「今日は本当にありがとう!」

僕は大変なことを思い出して、この場から走り去る。
今日はお姉ちゃんの誕生日だ!遅くなったから怒られる!お姉ちゃんは彼氏に買ってもらったというワンピースを古くなっても着ていた。妃姫子のワンピースを見て思い出した。

急に帰ったし印象最悪だろうな……。変な奴って思われたかな?
雨がポタポタと降ってきた。最悪だ!びしょ濡れになる!
怒るお姉ちゃんとお母さん、二人をなだめるお父さん。
どうして僕の周りには気が強い女子しかいないんだ!クラスの子はおとなしそうな子まで、僕のことを内心馬鹿にしてるし……!

そういえば妃姫子ちゃんは学校どこなんだろう?背高かったし中学生の可能性もある。
聞いとけばよかった!

可能性は低いけど……また会いたい。