探し回ったが見つからず、清乃は焦っていた。

昇降口に戻ったら落ちていた……ということもあるかもしれない。一度戻る?

しかし落ちるなんてことは一度もなかった。
あの子が盗ったとしか考えられない。

「怒らないから出てきてー」

この階にいるかもわからない少女に呼びかける。 
窓の外はいつの間にか雨が降っていた。分厚い灰色の雲に覆われている。雲の向こうの太陽は顔を出しそうにない。

清乃は涙ぐんだ。すると、教室の窓から少女が見ていた。口を結び、じーっと見ている。

「あのね、私の指輪を見てない?ダイヤがついていて……」

「隠したよ。お姉さん、私と遊ぼう?」

清乃は困惑した。遊んだら指輪を返してくれるのかもしれない。

「遊んだら返してくれる?」

答えなかった。この子は一体何がしたいの!?

「勝手に隠して返さないって言うのはおかしいわ。大切で、なくてはならない物なの。返して」

「嫌だ。返したらあのおじさんのところに行っちゃうでしょ?」

この子は何のために敦から離そうとするの?

「私、もっと遊びたかったの。兄弟もいないからいつも一人で遊ぶしかなかった。でも、お姉さんが来てくれた」

少女はケタケタと笑う。

「自分の家とこの学校にしか行けなくなった。前の校舎では皆怖がって離れていった。でもお姉さんは、ちょっといたずらしただけでここまで追いかけてくれた」

いたずら!?
清乃は頭にきた。いい加減にしなさいと言おうとした時だ。

「お姉さんは、ここから出られない。他の人から見えなくなる。私と遊ぶしかないんだよ」

清乃は絶望し、崩れ落ちた。

「もう、敦に会えないの……?」

「どうかな?私の気分にもよるな~。でも、あの人を解放したら、お姉さんは遊んでくれなくなるでしょ。だから……」

永い時間を敦にも会えず過ごす。この白い校舎で……。
気が遠くなり、瞳からは光が消えた。

それから、清乃たちの家も裏の古い家からも、人の気配が消えた。