聞こえてきた機内アナウンスは聞き慣れている声と同じなのになぜか照れてしまう。
後部座席から小さく聞こえた「うわ。すっごくいい声」の一言に、直に聞く方がもっと素敵なのよ、とちょっとだけ優越感を感じつつ到着した空港。フライトクルーである智也と一緒に空港を出る事は当然ままならなくて、ひとり荷物を引き摺ってホテルへと向かった。


案内された部屋は「さすがエリート!」なんて智也が聞いたらまた眉間に皺が寄りそうな一言がつい口を突いて出てしまうような優雅なコテージだった。


広々としたリビングの奥にあるベッドルームの大きな窓を開けバルコニーに出たら目の前に広がるオーシャンブルーの美しさに思わず「うわあ!」と声が出てしまった。
プライベートビーチだ。人影はない。別世界に来たような錯覚を覚えながらうっとりと心地よい乾いた風にしばらく吹かれていると、後ろから「待たせたな」と声がして抱きしめられた。


「綺麗だ」と耳元に囁いた智也の唇が首筋に触れ
啄むようなキスを繰り返しながら辿り着いた耳たぶを甘く噛んだ。


「海が?」
「海も・・・真理子も」


肌に感じる吐息が熱さと、濡れた舌先の感触に肌が粟立った。
くすぐったさに身を捩ると智也の隙の無い白い襟元が視界に入った。
パイロットの制服姿の智也はとても凛々しくて
今更ながらドキドキしてしまう。
もう何年も付き合っている私でさえこうなのだから
この姿を間近で見るCA達は・・・なんて思うと心穏やかではいられない。


昔も今も相変わらず嫉妬するのは私ばかりなのが悔しい。このバカンスの最後の夜に智也には気づかれないように、でもCA達には見える場所に明らかにソレと解る「印」をつけようと心に決めて、手を伸ばし彼のタイを緩めシャツのボタンを外した。


「待たせた分、愛して」


ふ、と笑う目元が一度伏せられて、ゆっくりと細く開いた瞳は艶を帯びて。
上着を脱いで放り投げ、私の腰を引き寄せた。そして「嫌と言うほど」に続けられた「愛してやる」の言葉は熱いくちづけに形を変えた。


もう波の音も聞こえない。聞こえるのは私を呼ぶ智也の声と吐息だけ。
光も風も智也以外は何も感じなくなった私は、彼の中に漂い溺れて、沈んだ。