島…君をレンタルしたいカナ

「名前付けれないんだって」


答えるのは賢太。


「あら、どうして」


「レンタルだから情を移さない為に…よ」


人参のスティックも差し入れると、それを両手で握って齧る。


「可愛いー。なんか見てるだけで癒されるわねー」


名前を付けれないなんて残念だわ〜と言う母の目は、ここ数年見たこともないくらい輝いてる。


「やっぱりなんか付けてやろうぜ」


興味深そうにする賢太の顔も楽しそう。


「ダメよ。店長さんに怒られるからやめて」


折角仲良くなれたんだから邪魔しないで。
店長さんとの約束は絶対に守るって決めてるんだから。


「ちぇっ」…と小さく声を出した賢太は、まるで幼い頃に戻った様な目をしてる。
こうしてると思い出すな。
お父さんが生きてた時のことーーー。



「あっ。こうしちゃいられなかった。朝御飯食べて仕事へ行かないと」


母は思い出したように立ち上がる。
賢太もそれに合わせて膝を伸ばし、自分も支度しようと部屋を出た。


二人よりも出勤時間の遅い私はまだノンビリしてていい。二人が部屋を出て行った後、トイレの砂を替えて、ケージの床材も替えてあげた。


実は私の家には父がいない。
私がまだ高校生の時にガンで亡くなってしまったんだ。

中学生だった賢太は多感な時期で、いきなり母子家庭になった現実を前に、少し心を閉ざすような時もあった。