コートの用意をそれぞれが黙ってこなしていく。
紐が結ばれてネットが引っ張られ
雑巾がけが行われる。





皆がみんな、どう話を切り出すのか
楽しく他愛ない話を進ませるのか
その方法を忘れていた。  








それもこれも、彼女がいなくなるからだ。
彼女がいなくなったら、
確実に今まで保たれていたこのグルーヴは
崩れる。








彼女が支えていたところがぽっかり空いてしまったら
最初に周りがバランスを失って
身を落としていく。




まるで、蟻地獄に陥った
哀れな蟻のように。







それだけ、存在が大きかった彼女を失うことは
イコール……バレーの精度だって落ちることになる。







予想が膨らむ最悪事態を避けようと
誰もがこうやって口をつぐんで
早く練習しようと
用意をしていたのだ。






 


だいぶ気まずくなってきた
この場に喝を入れられるのはやっぱり。







「みんな、辛気くさいなあ。ちゃんと、声だせ!」







ふざけ口調で、でもしっかりと芯が通った声で言って
結愛が体育館入り口に仁王立ちしていた。







この存在がいなくなったとしたら。








この場所はやっていけないかも。
少なからず、部員はそう思っていた。










彼女にとってはお手の物の役割は
やっぱり彼女しか出来ないのだ。