私たちはまた向き合っていた。
立ち止まった私が声をかけずとも
結愛はまたあの日と同じ真剣な顔でこっちを見返した。
たった一言。
ただの一言を言うために
私はその目を見返す。
「まだ速いかもしれない。けれど」
お別れするときはあなたはきっと
私に声をかけていかないでしょう。
かけないからこそ、
私にあんなことを言った。
その返事がしたくば、
こうやって世間話もおだても一切なく
一言で伝えるしかない。
そして、それをあなたは待ってる。
「待ってて」
目を黙って見開いた彼女の横をすり抜けて
体育館へ向かう。
吸汗性の高いウェアが寒空に震える。
私は、彼女と私だけの約束を守る。
このチームの誰も知らないこの約束は
私一人で果たす。
このチームのエースは、
私を待ってる。
このチームが抱えた私だけを待ってる。
待ってる。
そう君が言うなら足掻いて足掻いて
彼女の目の前に立って飛ぶんだ。