「はぁ。沢山話したら腹がへったね。朝ごはんにしよう。」
よし、と言って立ち上がりキッチンの方へ歩いていく。そして持って来たのは大きな袋だった。
「何がいいかわからなくてさ、とりあえず一通り買ってきたんだけど‥‥」
お茶、オレンジジュース、ココア、菓子パン、お惣菜パン、おにぎり、サンドイッチ‥‥
それは青い猫型ロボットのポケットのように、次から次へと食べ物が出てきて、何もなかったテーブルの上を埋め尽くしていく。
「何がいい?あ、このサンドイッチ食べようとしてたんだよね?じゃあ俺もサンドイッチにしようかな〜。」
私が昨日コンビニで買ってきて、テーブルに置いておいたサンドイッチを指差して言った。そして、なんかパーティみたいだねと笑う。何も言わない私に、彼はサンドイッチの袋をビリビリと開けた。
「いや‥‥待ってよ。」
やっとのことで私はポツリとそう呟く。
「あ、頂きますがまだだったね。」
サンドイッチを頬張る彼が、ごめんと言いながらまた笑った。
「そうじゃないでしょ。私まだ全然納得できてない。」
ふつふつとこみ上げるこの怒りに似た感情は誰にぶつければよいのだろう。彼は私よりも年上のはずなのに、敬語を使うことすら忘れていた。
「いつも、一人で食べていたの?」
オレンジジュースをゴクリと飲んでサンドイッチを流し込み、優しく微笑んで言った彼のその言葉は、私にとってはあまりにも残酷な言葉だった。
「‥‥そんなの、あなたに関係ないじゃない。」
私が怒っていると知っているくせに、彼はその言葉を続けた。
「休みの日に家族で出かけたことある?ピクニックとか、映画とか。遊園地は?動物園は?」
誰にも踏み込んでほしくなかった領域に、ズカズカと踏み込んでくる。もう、惨めな思いをするのはたくさんだった。幼い頃、周りの子に、どうして参観日なのにいつも誰もこないの?と言われたことがある。長期休暇が終わると、似た質問をされたことがある。そして必ず、可哀想ね、そう言われた。私にとって一生懸命働く母は誇りだったのに、その度に汚されていくようで心が痛んだ。
「なくても、誰にも迷惑はかけてないわ!」
涙が溢れそうになるのを必死にこらえた。そんな私に、彼はまた驚かせる言葉を言った。
「俺も。ずっと一人だった。家で勉強して、ゲームして、いつもテーブルにお金が置いてあって、それで飯を買って、食べて、毎日その繰り返し。困ったことなんて一度もなかった。」
黒く澄んだ瞳が私を見つめていた。
「でも、心のどこかで思ってた。俺だって時々甘えたいし、甘やかされたい。家族と飯を食べたいし、休みの日には一緒にどこかに出かけて、夏休みの絵日記に描きたかった。誰かに自慢したかった。今までの暮らしで不自由はなかったけど、心が満たされることもなかった。」
今にも泣き出しそうな顔で無理して笑う、そんな彼の言葉に胸が痛くなる自分がいる。私も同じ気持ちだったんだ。
