「‥‥全く意味がわかりません。」
今まで人の何十倍もの時間を勉強に費やしてきたのに、いざという時にこの頭は役に立たない。いや、この手の問題に直面する人が、地球上に何人いるのかを考えた方が簡単かもしれない。
「ちゃんと説明するよ。わかるようにね。」
ゆっくりとした口調で語り出した、彼の話は以下の通りだった。
彼の父は最近転勤になり、母が働いている会社の社長として配属された。そして、バリバリと働く母に恋をし、結婚を前提に付き合ってほしいと頼んだらしい。
そこで、母は言ったのだ。
あなたの息子が私の娘とやっていけるのなら。つまり、私の娘が兄を望むのなら、応じてもいいですよ、と。
「だから、とりあえずこれから一年は様子見ってことで、俺は君の兄貴。ここで生活するから。」
気付けばそう言う彼の顔を、じっと見つめていた。何を言っているんだ。それは私の許可なく決めることじゃないだろう。見知らぬ男と突然同居させる親なんているのだろうか。いや、母ならやりかねないか?もう一回頬をつねりたくなる。いっそのこと、夢であってほしい。そしてこの悪夢からそろそろ目覚めさせてくれと願った。
