「‥‥‥‥‥‥‥‥は?」

驚き過ぎてマヌケな声が出た。

「えっと‥‥聞こえなかったかな?コホン‥‥俺が、君のお兄ちゃんなんだ。」

彼はもう一度、そんな風に言い直した。
いや、聞こえなかったわけではない。ただ、頭が真っ白になって言葉が出てこないだけなのだ。どう考えても、この爽やかに笑う人がお兄ちゃんなわけがない。だって、私が小さな頃に母は離婚していて、それからずっと働きづめで家に帰ってくることなどほとんどなかった。ましてや、その間に他の人と恋愛をして、子どもを産んでいるなんてありえない。そう考えれば、ほとんど知らない父の子どもなのだろうか。

「あの‥私に兄はいません。」

絞り出した声が震える。

「‥‥うん、俺もだよ。」

ニコッと照れ臭そうに笑う、彼を見つめた。

「‥‥いや、だって今、私の兄だって」

言ったじゃないですか、そう続くはずだった私の言葉を遮るように彼は言った。

「俺は、君のお兄ちゃんになるんだ。」

一つずつ、確実に。その言葉達を述べていく。

「俺たち、これから家族になるんだよ。」

彼の後ろにある窓からは日差しが降り注いで、シルバーのネクタイピンがキラリと光っていた。