フローリングはまだひんやりと冷たくて気持ちがよかった。眠たい目を擦りながら、階段を一段一段降りていく。その先にはドアがあり、向こうには誰もいないリビングがある‥はずだった。

ガチャリ

「あ、おはよう。」

ガチャリ

開けた扉をすぐに閉めた。なぜか?先ほど言ったように、誰もいないリビング、のはずだった。誰かがいるのはありえない、はずだったんだ。

勉強のしすぎ?寝ぼけている?幻覚?

「いや、ナイナイナイナイ!」

気付けば大きな声で否定をしていた。

「ひふぁい(痛い)‥‥。」

人生で初めて自分の頬をつねった。夢であってほしいと願ったことは今までにもあったが、今回は過去1位や2位を争うくらいの出来事だ。しかし、その痛みが現実だということを物語っていた。

いっそのことこの階段を駆け上がり、まだ温かいはずの布団に潜り込んでしまおうか‥そう考えていた時だった。

ガチャリ

「ねぇ、閉めないでくれる‥って何してんの」

私よりも15センチは大きな身長。程よく鍛えられた体にパーマのかかった黒髪マッシュ。大きめの目に高い鼻。高価そうなスーツ姿。頬をつねったまま見上げる私に、困った顔で見下ろす男性。それが彼との出会いだった。