「勉強はあとで一緒にしよう。だから、今は俺に付き合って。ね?はい、決まり!」

そう言って、私をソファーから立たせて無理やり、引っ張って行く。かと思えば、玄関のスタンドにかかっていた私の上着をおもむろにとって、手渡した。

「初ドライブ。絶対楽しませるから。」

その日、あまりにも天気が良かったからか、お腹がいっぱいで思考が停止していたのか、彼の自信ありげな笑顔からか‥‥いや、全部かもしれないけれど。

「ちょっと待ってください!‥‥じゃあ、その、着替えてくるので。」

気がつけばそう答えていたんだ。

(なに言ってんの私!行かないつもりだったのに!)

心で呟いてももう遅い。

「っていうか、どこに行くのよ。」

そうわかっていながらも、止まらない気持ちは言葉となって口から出た。それでも、自分の部屋のタンスに手をかける。

開けるとパステルカラーの服が山のように入っていた。

「早くしろよー!」

下からそんな声が聞こえてくる。

「急かさないでよ。」
「なんか言ったー?」
「‥‥なんでもない!」

目の前にあった白のシャツに、涼しげな水色のスカートをハイウェストにして着て、茶色いベルトをした。髪はくしでさっととかして、薄くメイクをする。

思えば、こんな風に家族と出かけるのも、急かされるのも、待っていてもらうのも、一緒にドライブをするのも、初めてかもしれない。
いや、まだ家族というには早いのだけれども。

(別に彼のためなんかじゃない。外に出るから仕方なく、なんだから。)

鏡の中の自分に、そんな言い訳をしてダダダダ、と階段をかけ降りたんだ。