「よし、じゃあ行くか。」

ご飯を食べ終わって一息つくと、そう言って彼は突然立ち上がった。

「え、どこに?」

目が点になった私をおいて、椅子にかけてあった自分の上着をとって羽織る。

そしてそのまま、テーブルの上の飲み物や食べ物をもとの袋に入れてキッチンへと持って行った。

パタンと冷蔵庫が開く音がして、また、少したってから閉まる音がした。

なんだか置いてきぼりにされた、そんな気分だった。

「ほら、早く。置いてくぞ。」

彼がテーブルの上に置いてあった車のキーを握ると、チャリンと音がした。

「ちょっと、どこに行くんですか。私、家で勉強しなきゃいけないし、洗濯だって‥‥。」

やることがあるのは嘘じゃなかった。でも、それだけではなかった。本当は少し、怖かったんだ。このまま、彼についていくことで、自分が変わってしまいそうで。

一人で平気なのが私。

彼ともう少し一緒にいたい、ほんの少し芽生えたこの気持ちに、すぐに正直にはなれなかったんだ。