「じゃあ、自己紹介しようか。」

目の前にいる彼は、おもむろに取った玉子のサンドイッチを頬張りながら、突然そんな提案をした。

「…自己紹介ですか?」

私はそう言って首をかしげる。

「だって、なんて呼ぶかわからないじゃないか。自己紹介は大事だよ、仲良くなるために。」

ほら、転校生だってするしと呟く彼のことを、私は何も知らない。これから一緒に暮らすのならば、聞いておく必要があると思った。

「俺は、並木優。23歳。仕事は父親の手伝いで、これでも部長です。まぁ、コネ入社だけどね。」

君は?そう聞かれて、私は少し考えた。

「‥‥あんまり、自分の名前、好きじゃなくて。」

「どうして?」

「‥‥鈴音、笑。それが私の名前です。あんまり笑わないのにどうして笑なのって、よく馬鹿にされるから。‥‥高校三年生です。」

とてつもなく恥ずかしかった。きっとこの人も可笑しいと思っただろう、そう考えていた時だった。

「あんまり笑わないって、俺だってこんなだけど、一人の時もヘラヘラしてる訳じゃないよ?これから、沢山笑わせてあげる。楽しいこと、沢山しような。」

その優しい言葉に、なんだか胸がムズムズして、温かくなった。

「さぁ、他に聞きたいことは?」

どーんとこい!と両手を広げる彼に、しばし考えて返事をする。

「ないです。」

「こら!俺にも少しは興味持て!」

はっはっはと笑う彼を見つめた。よく笑う人。この人と一緒にいたら、本当に楽しいかもしれないと思わせるほど。