血雨

私は玄関の鍵を開けた。

「レミちゃん…！！！！」



涙目のななこおばさんがそこにいた。

「ななこおばさん……」

私も一緒の涙目で、なんだか不思議な感じだ。


「レミちゃん大丈夫だったの！？不安だったよね寂しかったよね…」

ななこおばさんが痛いくらいに私の体をさすってくれる。
でも、温かい手が落ち着く。

「ななこおばさん…不思議なことが起きたの…あのね、あのね……！」

ななこおばさんに全部話そうとした瞬間。


パリーンッ


キッチンから何かが割れる音が聞こえた。


「パパ？大丈夫？」


私はそう言って、キッチンに向かおうとした。
でも、おばさんに腕をグッと掴まれた。


「レミちゃん何言ってるの…？パパは死んじゃったんだよ…？？」


涙目のおばさんの目が痛いほどパパの死を訴えてくる。

「やめてよおばさん。2人で私を騙してるのね？お互いどっちが死んだ！とかやめてよ。ひどい冗談だね」

そう言って笑おうとしたけど無理だった。

「マサルは…パパは、どこにいるの？連れてってほしいな。」

変なの。
まるで死んだ人に会いたいって言ってるみたいに聞こえる。

「キッチンだよ。」

おばさんが靴を脱ぎ、私の後ろについて歩く。

なんだか冷たい空気が私を包み込む。
何かが怖い。

パパもおばさんも、死んだ死んだって。
何なんだろう。
2人ともへんな嘘をつくのはやめてほしい。


「ここだよ、キッチン」

おばさんは私を見つめ、ぐっと息を飲んだらしい。

何をそんなに緊張してるんだろう。
本当に不思議だよ。


「マサル…？いる……？いるなら返事くらいしてよ…」

パパの返事がないらしい。

返事くらいしてあげればいいのに。
そう思って私もキッチンに入る。

「パパ？ななこおばさんが来たよ、ちゃんと生きてるよ！」

そう言ってみたが返事はない。





それは当然だった。
そこに、パパの姿は無かった。




その後ななこおばさんと一緒に、パパの部屋やトイレや庭、全ての部屋を調べたけど、パパはそこにはいなくて。


作りかけのココアと、割れた空マグカップが床に横たわっているだけ。