どのくらいの間ぼうっとしていたのだろう
背後でガラッと音をたててドアが開かれる
職員会議が終わって先生が戻ってきたんだろうか
振り返るとそこには、練習着姿の凪原が立っていた
『怪我?』
スラリとした彼の全身を見渡すがどこからも血は出ていない
「違う 怪我は有明だろ」
そっとドアを後ろ手で閉めて、こちらに向かってくる凪原
ああ、と彼の意図を理解した
私を気にかけて途中で部活を抜けてきてくれたのだろう
「…泣くほど痛かったのか」
いつもワントーンの彼の声が、心配の色を含む 彼のこんな声は初めて聞いた
『菜々達にも中川君にも言わないで欲しい。話が大きくなるのは面倒だから。』
そしてもう一言
『私は、凪原君になら泣き顔を見られてもいいと思った。』
