痛みには強いほうなのか我慢できる程度の痛みだったので、朝陽を落ち着かせようと立ち上がろうとすると、ぎゅっとそれをさせまいと力が加わる
『…凪原君』
「…ごめん」
正直驚いた。彼は悪くなかった。
ただタイミングが最悪だっただけなのだから、彼が自分を責めるとは思いもしなかった
『タイミングの問題だから気にしないで』
そう言っても彼は離してはくれない
いい加減、この体勢に僅かな羞恥を覚え始める。
これじゃ密会どころか熱い抱擁だのなんだのと新たなネタに後日加えられるだろう
今まで気が付かなかったが彼の心臓の音がやけにはっきりと聞こえてくるのを私は見逃さなかった
彼は明らかに動揺している
普段、大体のことは予想通りに事が運んでしまうから不測の事態には弱いのかもしれない。
そう思うと完璧な彼もちょっと人間らしく思える ロボットなんて言ってごめんと小さく凪原に心の中で謝った
ただ、今ので確信した やはり彼も私と同じ
で分からないものが恐いのだと。
今の場合は後ろから飛んでくるボール
いや、ボールでこんなに動揺はしない
きっと自分のことを私が庇ったことで私が怪我をしたことが予想外だったのだろう
このときふと、私の中に悪魔が生まれた
もっと彼を動揺させたい。
私はきっと歪んでいる
私は今彼を困らせたくてしょうがない衝動に駆られている
そして、それを楽しいとさえ感じる
ぎゅっと彼のシャツを掴んで彼にしがみつく 彼が反応するのが分かる
普段の私からは誰かにしがみつくなんて想像できはしないだろう
