悪びれもなく、近くの柱の影からビー玉のような瞳でこちらを見つめながらヤツが姿を現した。
サッカーの強豪校の1つとして、うちの高校とも名を連ねる他校のジャージ姿で、ポケットに両手を突っ込んで立っていた。
そして、俺の目の前まで近づいてくると、その手をポケットから出したかと思うと
勢いよく俺の両手を握った。
予想外の展開でぽかんとしていると、
そいつはバッと頭を低く下げた。
「…え…っと、なに?」
戸惑いを隠せずに、両手を握られたまま尋ねた。
すると、そいつはうう…っと低くうめきながら言った。なんだか握られた手がぷるぷると震えている。
「昼間は、生意気なこと言ってすみませんでしたぁぁあ!!」
そのまま勢いよく顔を上げた有明の弟は、半泣きで体を震わせながら言葉を続ける。
「ずっと大切にしてきたお姉ちゃんを、よりによって先輩みたいな完璧超人にとられるかと思うと、僕なんて足元にも及ばなくて、あてつけに先輩の前で、お姉ちゃんのことを抱きしめました!
ごめんなさぁああい!」
一気にまくし立てると、息切れを起こしながらすがるような目で俺を見つめる弟。
「咲希のことを1番理解している存在です、とかなんとか言って調子こいて彼氏づらしてしまいましたぁあ!
それでも…」
澄んだ瞳で真剣に俺を見つめながら、弟は言った。
「…あいつは、不器用だけど
本当に良い奴です。
だから、僕が頼まなくてもきっと先輩ならあいつを笑顔にしてくれると思うけど、
それでも、あいつの弟として言わせてください。
お姉ちゃんのこと、どうかよろしくお願いします…」
再び弟が深々とお辞儀をする。
低く下げられた色素の薄い頭が蛍光灯に照らされて、金色に輝いて見える。
その健気な姿に、両親がいなくても有明がおばあさんやこの弟からたくさん愛されてきたんだと感じ、胸が温かくなった。