有明を部屋に運び込んだあと、おばあさんが眠った有明を着替えさせたりで忙しくなりそうだと思い、お暇することにした。
「待ちなさい」
ベットですやすやと眠る有明を見つめながらおばあさんが俺を引き止めた。
「…あなた、咲希ちゃんのただの友達じゃないでしょう?」
おばあさんの眼鏡に影がさして、その感情が読み取れない。
この不思議なおばあさんの次の手が読めずに、身構える。
瞬間、おばあさんが俺の両手をがっしりと握り、詰め寄って小声でひそひそと離す。
「ちなみに、あなた達、A B Cで言うとどこまでいったの?? 手はもちろん繋いだわよね、ま、まさかキスまでしちゃったのかしら?」
あらっ、もうやだぁ〜と、おばあさんが掴んだ俺の両手をぶんぶん振り回して頬をピンクに染めながら大はしゃぎする。
ぽかんとしている俺をあの灰色の瞳ですっと見据えて、おばあさんが不敵に微笑む。
「咲希ちゃんが浴衣を着たいなんて言うから、まさかとは思っていたけど、こんなにハンサムな子が相手だったとはねぇ」
うちの人の若い時そっくりだよぉ、とおばあさんがはしゃいだように笑う。
それから、有明の普段の学校でのことや他の友達のことを一方的に尋ねられて、それに答える形でおばあさんと話をした。
しばらくして、話に一区切りがつき沈黙が流れると、おばあさんは何かを心に決めたように瞳を光らせて、振り回していた両手をぴたりと止め、今度は真剣な顔で俺を見つめて言った。
「…咲希ちゃんに怒られちゃうからあたしが話したことは絶対に内緒よ」
秘密を守れるかい、とおばあさんが試すような目で俺を見据えた。
そんなおばあさんを真っすぐに見つめて頷くと、おばあさん一瞬驚きの色を瞳に浮かべながら、でも納得したように話し始めた。
「…実はこの子はね、小さいときに飛行機の事故で両親を亡くしててね」
はっとして、眠っている有明の方を見ると、おばあさんも同じように有明を見つめる。
その眼差しは、愛おしむような、それでいて哀れむような複雑なものだった。
「今着ている浴衣は、あの子の母親があの子と同じ年頃のときに着ていたものなんだよ。 …あの子にとったら形見だね」
眠りながらも大切そうに浴衣の端を握りしめている有明に胸がいっぱいになった。
境内で俺の涙を何のためらいもなくその浴衣のたもとでぬぐってくれたことを思い出すと、有明の優しさにまた涙がこぼれそうになって、必死にこらえた。
「…私や悠には言わないけど、この子はきっと小さい頃から親がいないことで寂しい思いを沢山してきたと思うんだよ。
それが、この子の持つ寂しげな雰囲気に結びついているんだろうねぇ。
でも、今日久しぶりに、咲希ちゃんが誰かのためにあんなに楽しそうにしているところを見て、あたしは本当に嬉しかったんだよ。
それほど、この子はあんたのことを大切に想ってるんだよ」
だから、この子のことどうかよろしくねとおばあさんはにっこり微笑んだ。
俺の手を包み込むその手は、ふんわりと温かかった。
そんなおばあさんの手をぎゅっと握り返すと、小さく笑った。
「…分かってます。
形は違うけど、
俺もきっと有明と似ているところがたくさんあるからと思うから」
そして、部屋を出る前にもう一度有明の方に目をやる。
すやすやと寝息を立てている無垢な彼女を見ていると、悪に引きずり込もうとしている自分の汚さを突きつけられているような気がした。
それでも、俺は…
有明を守るために、
これからも変わることなく、
有明が俺達の方の世界を選んでくれることを、
悪魔になることを、
ずっと願い続けるだろう
…ごめん、
それと、
「…あんたが好きだよ」
聞こえるはずもないのに、眠っている有明にそう呟いて、彼女の部屋を出た
