有明という表札を見つけて、安堵した。
自分の背中で眠り込んでしまった有明になんとか家までの道を聞き出しながらやっとたどり着いた。
古いながらも隅々まで手入れの行き届いた木造の一軒家がそこにたたずんでいた。
有明がずり落ちてしまわないように上手くバランスをとりながら、片手でチャイムを鳴らす。古びた音とともに、はーいと声が聞こえて、玄関の扉が開いた。
「はーい、
……」
笑顔で扉を開いた人物が、俺の顔を見ると穏やかな笑顔でそのまま扉を閉めようとしたので、一瞬早く片足を扉の隙間に挟んでそれを阻止した。
ひぃぃっと怯えた声が隙間から聞こえる。
「…おい。 いいから、早く開けろ。
こいつが起きるだろ」
低い声で確保した隙間からひと睨みして言うと、そいつは俺の背中で眠る有明に気づき、はっとしたように急いで扉を開けた。
「悠〜? お客さんかーい?」
奥の方から、年配の女性の声が聞こえる。
しばらくすると、前かけで、手を拭きながら奥の部屋の入り口にかかったのれんをかき分けて可愛らしいおばあさんが出てきた。
「ば、ばーちゃん!お姉ちゃんが…寝てるみたいなんだけど、友達が、運んでくれたみたいで」
友達の部分をわざと強調しながら、有明の弟が説明する。
「まあまあ、うちの子がごめんなさいねぇ。 あなたは咲希ちゃんのお友達かしら?」
少しいたずらな目で、白髪のお団子頭のおばあさんが俺を見る。
赤い丸眼鏡の奥の灰色の瞳は、キラリと何事も見透かしてしまうように光った。
「…同じクラスの凪原です。 夜遅くにすみません。 咲希さんが足を痛めたみたいで、おぶっていたらそのうちに眠ってしまったので送りに来ました」
友達という以外にまだ有明と自分の関係を明確にする言葉を見つけられていなかったため、そのまま軽く挨拶をした。
おばあさんは、そんな俺を見てなにかに納得したかのように頷いた。
「そうだったのねぇ。わざわざありがとうね、凪原君。
ほら、悠、何をぼうっとしてるの。
咲希ちゃんを運んであげて」
ぴしゃりとおばあさんは、弟の尻を叩くと痛いよ、ばーちゃんと顔を軽くしかめながら、弟が俺の背中から有明を受け取ろうとする。
「…」
しかし、いくら引き剥がそうとしても、有明はコアラのようにしっかりと背中にしがみついたまま離れようとしない。
「あらあら…。どうしたものかしらねぇ…」
弟がむすっとして、俺を不機嫌そうに睨む。
その時、またおばあさんの瞳が眼鏡の奥で、キラリと俺を見て光る。
最後まで責任を取れということなのか。
このくそ生意気で二重人格な弟といい、
有無を言わせない威圧的なおばあさんといい、さすが有明一家だな、と苦笑いしてしまう
「…俺が部屋まで運びます」
それでいいとでも言いたげに満足げにおばあさんは頷きながら、部屋まで案内してくれた
